「知り合いに紹介されて電話しました。母が先ほど亡くなりましたので、よろしくお願いします」と病院の霊安室から電話がなる。
今年の春に葬儀をした方の知り合いだという。そのときも10名位の家族葬だった。病院に駆けつけると亡くなられたお母様が安置されている。ご自宅には戻らずに安置所を紹介してほしいという。霊柩車や寝台車の運行を専門に手がける東礼自動車が運営する斎場にお運びする。
お母様は97才、昨日までは老人ホームで元気に過ごされていたようです。突然の死に息子さん夫婦は落胆されている。
葬儀は身内だけの家族葬でおこなうことになる。三兄弟の息子さんに声をかけるというが、ご兄弟は関西で、体調も思わしくないので参加できるか、はっきりしないという。
お母様は、クリスチャンでしたが、協会の牧師さんが数年前に亡くなられ、後任の牧師さんが定まらず、それ以来、疎遠になっているという。このため、葬儀は無宗教形式で愛唱されていた賛美歌を聞きながらの葬式を要望される。
式場は、そのまま東礼の斎場をお借りすることになる。式場使用料は8万円、火葬場はかわさき南部斉苑になる。
通夜には、関西からご長男と三男のご夫妻が駆けつけられた。
式では、最期を看取られた次男様から、当時の様子が紹介される。次にお母様が好きだった賛美歌「やまじこえて」の曲がかけられ、用意された歌詞カードでみさんといっしょに合唱する。そのあとに「しゅよみもとに」を歌う。
献花とともに、柩に納められたお母様に声をかける。ご長男は「お母さん、ありがとう」と、ご次男は「お世話になりました」と声をかける。そして三男の息子さんは「待ってろよ、もうすぐ行くからね」と?
翌日の告別式では、賛美歌を合唱した後に次男様がフルートの演奏をお母様に捧げられた。曲は「千の風になって」。フルートの演奏にあわせて、みなさんで合唱する。
出棺の祭には、ご長男が「良い葬儀だった。きれいな花に飾られて、おふくろも満足しただろう、ありがとう」と挨拶された。
告別式の始まる前に三男の息子さんと(息子さんといっても60歳代後半のかたですが)お話をする。「もうすぐ行くからね」という言葉が気になっていたせいかもしれない。やはり、息子さんは癌に蝕まれ、死の宣告を受けていた。それも6年前に。当初は医者からも見放され、今生きていることは奇跡だといわれている。
「いつ死んでもいい状態だが、母親の葬式に来られてよかった」というと、側に居た奥様が「お母さんの前に死なないでよかったね。何よりも親孝行ですよ」と背中をさする。
火葬場の前でご次男から「バタバタして、お礼を言う間もなかったですが、本当に良い葬儀でした。握手させてくだい」と言われる。冷たい風もここちよい。