家族葬の風「家族の賛美歌に送られて」

女性からの葬儀の相談だった。力のない声が受話器から聞こえる。
 相談の内容は、ご自身の葬儀についてだった。ご自宅に来てほしいといわれ、すぐにスタッフとご自宅にむかった。

 ご自宅は、緑にかこまれた公団だった。ご主人も娘さんたちも仕事に出ていた。「ガンとの闘いを続けてきましたが、余命はあまりありません」という。

 女性は、死を覚悟していた。ご自分の最期を冷静に見つめようとしていた。男性は死を覚悟しても、葬儀の細かな配慮はなかなかできない。死から逆算して、いま解決しておくべきことを淡々とこなそうとしてるように思えた。

 葬儀は、ご家族と女性のご兄弟だけになるという。式場は、人数も少ないのでご自宅に決めた。本来は、プロテスタントだが、引っ越しなどで教会には通わなくなっていたのでキリスト教にはこだわらないという。
 「葬儀は、無宗教でお願いします。ただ、賛美歌を流して欲しいのです」といって3曲を指定された。「慈しみ312番」「主よみもとに320番」「神とともに405番」だった。
 そのほか、骨壺や棺、花祭壇の内容などなど細かな内容をきめた。

 打ち合わせの最後に女性がいった「あなたと他の葬儀社との違いはなんですか?」。スタッフが「お客様の立場になって心から葬儀をおこなうようにしています」と答えた。しかし、これは難しい質問だ。
 弊社が作った「おくり名」の冊子を渡した。「このなかに私たちの葬儀についての考え方が書かれています。一度読んでみてください。」と別れた。

 それから一ヶ月を過ぎた頃にご主人から電話があった。ご自宅で息を引き取られたそうだ。ご自宅にむかった。
 ベットに横たわった奥様は、一ヶ月の間にずいぶんと痩せられていた。白いソファーに座って打ち合わせをしていた奥様の目はもう開かない。かぼそい声が耳に残っている。

 二人の娘さんたちは、何か忙しそうにしていた。動揺している様子はない。奥様の側によりそって泣きじゃくっているのかと想像していたが、拍子抜けした。闘病生活が長かったので充分な別れの時間が取れたのだろうか。
 ご主人が「葬儀は、2〜3日先にしてもらえますか。もう少し一緒にいたいので」といった。

 三日後に通夜をおこなった。リビングの真ん中に棺をおいて、周りを花で飾った。準備が終わったころ、ご主人がいった「後は、私たちでしますから」と。今日の通夜をどう演出しようかと考えていたのでチョットがっかりする。
 通夜の食事も家族のみなさんで作っていた。「わかりました。ただ、明日の告別式は、時間の都合もありますので、私の方にまかせていただけますか」というと、ご主人が「ええ、よろしくお願いします」といった。

 翌日、黙祷から告別式がはじまった。賛美歌のCDにあわせて家族で合唱する。短冊にお別れの言葉を書いて、ご遺体の上にお供えしてもらうようにいった。「どうぞ、声をかけてあげてください」とうながした。

 ご主人が「ありがとう」と奥様に声をかける。長女が「おかあさん、おかあさん、おかあさん、・・・」と言葉にならない。次女が「何もしてあげられなくて、ごめんね」と頬をよせる。

 みなさんで棺のまわりの花を摘んで棺の中へ飾ってもらう。幾ばくかの時間がながれ、「最後のお別れをしてください」と声をかけると、ご主人が泣きながら奥様に口づけをする。娘さんたちが奥様の顔をさすりながら、泣きじゃくり離れない。「おかあさ〜ん、おかあさ〜ん・・・・」涙が止まらない。ご主人が娘さんたちの肩を抱きながら「時間だよ、お別れしよう」とやさしく声をかける。

 夏の光が部屋に差し込む。冷えた奥様の体は、永遠にその姿を私たちの記憶に留める。棺のフタが静かに震えながら閉められる。

 私の頭は、この棺をどうやってうまく、玄関まで運び出せるか、その段取りでいっぱいだった。棺を平行に運び出せるスペースはなかった。最初から分かっていた。でも、ご自宅から出棺させてあげたかった。
 リビングから、玄関までは棺を立てて運ぶしか方法はない。大型冷蔵庫を運ぶのと同じ状況だ。納棺のときから、この状況を予測してご遺体が崩れないように体を固定した。どきどきしながら、棺をほぼ垂直に立てて、移動する。玄関で棺のフタを少しあける。大丈夫だ。ご遺体は崩れることなく、美しい。奥様も笑っているようだった。
 ずっとこの様子を心配そうに見守っていたご主人は、安堵の表情をみせる。

 暑い光が霊柩車を射る。娘さんたちの手を添えて棺を霊柩車にのせ、火葬場へむかう。
娘さんたちは、御遺影を胸に強く抱え込んでいた。

翌日、娘さんから電話があった「あの遺影は、もとデータを加工したんですか。母がすごく美しく写っていたものですから、もしデータを加工してきれいにしてもらったのなら、そのデータをもらえないかと思い、お電話したのです」と。
 御遺影の写真は、娘さんからメールで送ってもらい、写真屋さんでプリントしてもらったものだ。加工してはいない。奥様は、美しかったのだ。アップにした方が、美しかったのだ。アップして、はじめて、その笑顔の美しさが、彼女たちの心を癒してくれているのだ。

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