◆ お父様が亡くなられた。
葬儀は無宗教で、生演奏で故人を送りたいという。自宅に伺い、詳しい打ち合わせをすることになった。
◆ 喪主様は、お父様の事を話し始めた。お父様は、破天荒な人生を歩んでこられた。ご自分の思い通りに生きてこられ、家庭や家族よりも趣味や友人達とのお付き合いを優先してきたのか、ついに奥様に逃げられる始末。
一方で独学で覚えたギターは、プロ並み。音楽をこよなく愛した。野球も大好きで、草野球チームを持ち、少年野球を指導していた。
◆ そんなお父様の人生を楽しそうに話す喪主のご長男。だから、お父様の好きだった音楽のある、形式にこだわらずに参列者が楽しく過ごせる葬儀にしたいという。
◆ 通夜/喪主様から、お父様の破天荒な人生を面白おかしく披露された。くすくす笑う兄弟や親戚の人々。
前の奥様に逃げられた後、お父様は略奪愛で再婚相手を見つけ、互いに息を引き取るまで相思相愛でその愛を全うされたそうだ。一足先に他界されたその奥様のご遺影がご柩の側に飾られいる。
「今日は親父のために、笑顔で飲んで騒いで送って欲しい。それを親父も望んでいると思う」と明るく語ったものの、時々思わず言葉を詰まらせる喪主さん。最後の方では、ご家族、ご兄弟が涙汲んでいた。
喪主様のご挨拶の後、二人のお孫さんからピアノ演奏が送られた。「おじいちゃんは、すごく優しかた」という。きっとお孫さん達が生まれたときから、ギターを弾いてあげたに違いない。
お孫さんの後に、お父様の親友でプロのミュージシャンから、素敵なピアノ演奏がプレゼントされた。参列者はそのメロディーに酔いしれながら献花をおこなった。
◆通夜式の後/お食事とお酒が振る舞われ、その間にはお父様のギター演奏で歌う奥様の曲が流された。生前に録音されたものだった。
お食事も終わり、三々五々、参列者が式場に戻って来た。奥様のお嬢さん、義理のお嬢さんが、その場で作詞、作曲した歌を飾ってあったお父様の愛用されていたギターで歌いはじめた。義理のお父様ではあるが、本当に好きだったのだろう、即興とはいえ愛情あふれる歌にみなさんから拍手がわいた。
◆ 翌朝、式場の遺族控室では、喪主様と妹さん、そして数人のご親戚の方がまだ眠っていた。テーブルの上には空っぽになった酒瓶が転がっていた。部屋にはアルコールの臭いが残っていた。飲み明かさずにはいられなかっただろう。
◆ 告別式の時に、喪主様が考えた贈り名が披露された。本当は「ギター侍」と命名したかったそうだ。テレビでギター侍という芸風で脚光をあびたお笑い芸人がいたので、妹さんたちから反対されたそうだ。しかし、生き方そのものがまさしく「ギター侍」だったお父様には、ふさわしい贈り名だと思った。
◆ 「親父は、司会者が言われるように、世間の物差では測れない人間だった。出世や金銭や世間体には興味はなく、ギターを愛し、仲間を大切にし、妻をこよなく愛した。そんな親父にふさわしい葬儀になったと思う。きっと喜んでくれると思う。ありがとう」と喪主様の挨拶で告別式が閉じられた。
◆ 別れ際に喪主様が「思い通りの葬儀ができました。でも、親父が生きていたら、もっと大騒ぎになっていたと思いますよ。かしこまった場であればあるほど、子供たちが驚くような事をしていましたから。七五三のとき神社で宮司さんのお尻にカンチョウしてましたから」と。やっぱり贈り名は「ギター侍」がいい。