◆ 見積もりをしてほしいというSさんからメールがあった。早々に見積もりのメールを送った。
◆ 数日してメールが返ってきた。
Q: 見積もりいただきまして有難う御座います。HP上の基本セットの花祭壇、確かに他社に比較して花に囲まれての感がします。
◆ さらに数日してメールが届いた。細かな質問と万が一の対応をたずねられた。
Q: 父の様態が日に日に悪化してきました。このまま入院すると長くはないようです。さて見積もりの内容について再度質問させていただきます。
◆ 追伸のメールが来た。
Q: パンフレットよろしくお願い致します。父は今週中に病院に再入院の予定です。
戒名については検討中ですが母の意見では最近のTV番組見るとなにやら馬鹿馬鹿しい、とも申しております。最近父のお墓(新規)の準備で霊園に行きましたが担当者の話でも俗名を入れているお墓も少なくはないようなので俗名で通すかもしれません。
確かにお葬式やお墓も変わってきていますね。
◆ 再度の質問メールが送られてきた。
Q: 戒名はいつどのように決まるのでしょうか?TVでやっていましたが、ある程度は自分で決められる、とかホントですか?
この質問は、本来葬儀社が答えるべき内容ではないが、
A: さて、戒名(日蓮宗では法号)は、一般的に道号、法号、位号からなっています。「○○(道号)日○(法号)信士(位号)」となります。法号の「日」の文字は日蓮宗独特のもので開祖日蓮聖人の文字からとっています。法号の残りの一文字には故人の俗名から取る場合が多いです。道号の二文字は仏道に入った者であることを称する号です。故人の功徳などを表す文字を仏典から選ぶようです。ただし、戒名には統一された規則があるわけではなく、また、宗派や僧侶個人によっても違うようです。
お問い合わせの件ですが、戒名は文字通り、戒めを守り仏道に入ることを決意し、その証として、それに相応しい名前を導師が授けた名前です。よって、自分がつけた戒名は戒名ではなくペンネームに等しいでしょう。
本来なら、戒名は死後ではなく生前に授かるのが筋でしょうが、江戸時代以降、死後に葬儀式の中で戒名を授け、仏弟子として成仏を願う儀式として仏式葬儀が定着しました。仏教のベースには、その人の業による輪廻転生があります。一つでも良い世界へ転生してもらうよう、生前の功徳を讃えるような戒名を庶民が望んで戒名が定着したのでしょう。
その意味では、戒名はお坊さんにお願いするのが筋でしょうが、亡くなられた故人が空のように大きな気持を持っていたので「空」と言う文字を戒名に入れてほしいという要望がかつてありました。お坊さんにとっては、次の文字をどれにするか、前後の脈絡から結構難しいそうですが、もし、お望みで有れば、このような一文字を入れてほしいというのがありましたら、書き添えて置いてください。参考にされると思います。
◆ 今度は具体的な内容の質問が届いた。
Q: さて父の法名ですが母が以下の法名は無理でしょうか?との質問です。よろしくお願い致します。
●聞法院妙徳日政信士
祖母の法名が聞法院妙入日美大姉とのことで、そこから取ってみたのですが如何でしょうか?とのことです。TVでは家族提案の法名でもお坊さんが良し、とすれば、そのまま利用する場合も有ると言っておりました。
難問である。こちらは仏教を学びたいと思い暇を見ては、関連の書物を読みあさってはいるが、僧侶でもなければ、どこかの信徒でもない。「戒名は僧侶にお頼みするのが筋でしょう」というのが、私たちの考えだし、そのような思いでメールを送ったつもりだったが、思わぬ展開になってしまった。しかし、「戒名は僧侶にお頼みするのが筋でしょう」とくり返してもしかたない。出しゃばりすぎだとは思いながらメールを送る。
A: ご返事遅れて済みません。
「聞法院妙徳日政信士」の件ですが、お母様が一所懸命考えられたのですね。お気持ち伝わります。参考程度に聞いていただければいいのですが、
「院」号は、その人が生活していた環境や人格・性格などを表す場合が多いようです。このため、まったく同じ院号をつけるケースは少ないようです。「聞法」は「教えを良く聞く」とか、「真理に耳を傾ける」という意味合いでしょうか。
また、男女平等の世の中で、こんな事を言うのははばかるのですが、お父様(祖父)ではなく、お母様(祖母)の院号を取るのはめずらしいケースではないでしょうか。
さて、「TVでは家族提案の法名でもお坊さんが良し、とすれば、そのまま利用する場合も有ると言っておりました。」とのことですが、それは戒名とは何かという問題を論じているのではなく、お坊さんにも色々あるということを云っているに過ぎません。
問題は、お母様のようにお父様の戒名(法名)について、真剣に考えていらっしゃることが、何よりも大切なことだと思います。
お父様が一生をかけてもたらした功徳にふさわしい文字(道号)は何か。その功徳をささえたお父様の人格に相応しい文字(院号)は何か。本来は、その文字を仏典から取るのですが、例えば「蓮明院美徳日政信士」とか。
「蓮明」は、「妙法蓮華経」の蓮(ハス)から文字をいただき、泥沼様な俗世界のなかでもきれいに花をさかせるハスの花のように清く、尊く、そして部下の人にも明るく接してこられた性格を表したつもりです。また、お名前の「政美」は祖父様、祖母様のお名前から一文字づついただいたお名前ですね。ご夫婦の愛情と政美様に対する思いが伝わります。その思いを引き続き持っていただくのも良いかと思い、道号と戒名につけました。また、「美」は、九谷焼の仕事をされていたそうですので、美術界のお仕事に貢献されたという意味も含めてみました。
お父様のお仕事がもっとわかれば、違ってくるかとは思いますが、何分私は素人なので、出しゃばった意見になってしまいましたが、考え方としては、このような視点も戒名には必要かとご理解いただければ幸いです。
後は、専門家のお坊さんにお任せするのが一番でしょう。
◆ 後日、返信が届いた。
Q: 返信有難う御座います。内容を見て母が喜んでおりました。
蓮明院美徳日政信士
この戒名を付けて頂ければ本望だと申しております。
お坊さんのご意見も有ろうかと思いますが、よろしくお願い致します。
◆ 紹介したお坊さんには、この間のメールのやり取りを報告して、了解を得た。葬儀はご家族だけで無事終了した。
◆ 今回の葬儀は、戒名について色々と考えさせられた。死後に戒名をつける習慣は、仏教国のなかでも日本だけのようだ。それまで信心がなくて、このままでは地獄に堕ちると不安がる遺族が葬儀のときに戒名を授かり、仏縁を結んで成仏を祈ったのだろう。故人を深く想う遺族の優しさだろう。
しかし、お釈迦様は、あの世のこと、霊魂のことを尋ねられたとき、なにも語らず、有るとも無いとも答えなかった。そんなことにかかわってる暇はない。答えられないというより、答えない。これを「無記」というそうだ。
今、このときの人生苦の解決をする、それを説かれたのがお釈迦様であり、仏教だ。その教えの要約が「諸行無常・諸法無我・涅槃寂静」の三法印で、苦を解決する実践法を「四諦の法門」で説き、悟りへの道を要約して「戒(持戒)・定(禅定)・慧(智慧=般若)」にまとめられた。
◆ 「持戒」でみずから誓って生活を規制し、心身ともに集中し「禅定(座禅など)」に入り、「般若」無我の悟りを体現する。その仏門に入って、みずから誓って生活を規制する「持戒」を受け入れ、仏教徒として生まれ変わる、その時の名前が「戒名」ならば、やはり「戒名」は生前であるべきではないだろうか。
◆ 仏教を選択するならば、今一度、仏教を問い直す時期にきているのかもしれない。