◆ 病院からの電話だった。葬儀の費用をたずねられ、見積もりがほしいという。その場で、概算を答える。携帯電話にメールで見積もりを送って欲しいという。
◆ 折り返し、電話があった。
Q: そちらに決めましたので、よろしくお願いします。
◆ 亡くなられたのは、中学生の息子さんだった。お父さまからの電話だった。病院からご自宅までは、ずいぶん離れていたが、息子さんのご遺体をお父さまの自動車でご自宅まで運んでこられた。
◆ Q: 女房は、息子だから大きな葬儀社に頼んだほうがいいと云ったんです。その葬儀社にも見積もりを頼んだのですが、正式に依頼を受けないと見積もりはできないといわれ、ほかの葬儀社に見積もりを頼んでも、電話ではむずかしいといわれ、そんなとき友人からおたくのことを教えてもらって、電話したんです。すぐに費用の答えが返ってきたのでおたくにしました。
◆ 息子さんは運動部の選手だった。スポーツ万能で中学生にしては体格もよかった。夏休みの終わりに大会があり、その大会の前日に仲間といっしょに気分転換をかねて大会の会場の近くへ海水浴にいったそうだ。練習の毎日で久しぶりの息抜きだったのだろう。
ところが、浅瀬で遊んでいたにもかかわらず、息子さんだけが、水にさらわれたそうだ。救助されたときは、すでに意識不明で近くの病院に運ばれた。
一ヶ月近く意識不明のなかで頑張ったが、戻らぬ人となった。
◆ 葬儀は、息子さんのご遺体が入った棺の回りをきれいな花でかざり、その回りをお坊さんをはじめご家族ご遺族が囲み、多くの同級生が参加した。
儀式は仏式だったが、同級生の友人たちには献花をしてもらった。
◆ お父さまが同級生のみなさんに語りかけた。
「うちの息子をみてやってください。本当に残念でなりません。本当に悲しくてなりません。みなさんも決してご両親を悲しめるようなことをしないでください」と。
◆ 後日、お宅に伺うと、お父さまが話された。
Q: なんだか、まだ息子が生きているようで、ときどき二階で息子の足音がするんですよ。
葬儀の後も、息子の同級生が毎日お参りに来てくれます。昨日来た友人が云っていたんですが、彼も息子と同じ運動部にいて大会に参加していたらしいんです。そのときはすでに息子は入院していたんですが、彼は息子が大会に参加して試合をしていたのを見たと云うんです。彼は息子が入院していたことをその時は知りませんでした。その話を聞くと、息子の霊が大会に参加していたんじゃないかと思っているんです。
◆ 息子さんのことで頭の中が一杯なのでしょう。当たり前のことです。しかし、少し気になります。
A:
いま、お父さんは息子さんのことが気になってしかたないでしょう。一日中、明けても暮れても息子さんのことで一杯でしょう。こんなことを葬儀社の私たちが云うのは僭越ですが、息子さんが亡くなられて悲しんでいらっしゃるのは、お父さんだけではないですね。奥さんもそうですが、弟を亡くしたお姉さんも悲しんでいると思います。姉弟だからこその喪失感が娘さんを襲っているかも知れません。
息子さんへの思いを断ち切ることは難しいでしょうが、今生きている娘さんのことも今まで以上に大切にしてあげなければ、今度は娘さんが不幸になりますよ。勘違いであればいいのですが。
と話しかける。
Q: 今云われて、ハッとしました。先日娘にお父さんは私の悲しみなんかわかっていないといわれたんです。
◆ 同じ家族でも悲しみは違う。愛する夫を亡くした妻の悲しみと喪失感は、子供たちには本当には理解できない。今回のように我が子を亡くした両親の悲しみと姉弟を失った喪失感はまた違う。
ときどき葬儀をしながら、ご遺族がうまく心の整理がつくのだろうかと心配になるケースもある。
◆ A: こんな言い方をしてはなんですが、お父さん、あの世では息子さんの方が先輩ですから、今度あの世に往ったときに先輩から文句をいわれないようにご家族を大切に守ってあげてください。
娘さんのことが気になりながらご自宅を後にした。