家族葬の風「娘を看取って」

◆ 夢を一杯かかえて元気に生きてきた娘さんが5年前に癌を患った。最初の癌を摘出すると、間もなく次の癌が発見された。そんな闘病生活の連続に家族全員が彼女を支えた。娘さんもそれに応えて、過酷な治療に耐えてきた。
 しかし残念ながら、癌は全身に転移し、激痛に呻き声をあげながら一生を終えた。
 
◆ ご自宅に葬儀の打ち合わせに行った。意気消沈しているお父さま。落ち着かない様子のお母さま。
 「おい、お母さんもこっちに座って話を聞きなさいよ」とお父さま。「ごめんなさいね。なにも準備ができてなくて」とお母さま。
 
◆ お父さまが静かに話し始めた。

        Q:    娘は、葬儀はしなくて家族だけで送って欲しいと云っていたんですが、親戚の手前、そうもいかないので、告別式だけをしたいんです。そういう事でも大丈夫ですか?

        A: 大丈夫ですよ。他にもご要望があったら云ってください。

        お母様:    娘に晴着を着せてあげたいんでが、お願いできますか。

    先ほどから、慌ただしく動き回っていたのは、娘さんの晴着を準備していたのだ。

        お母様:    なにも準備が出来ていなくて。

    とくり返すお母さま。

     A:    準備なんか、どなたにもできませんよ。まだ時間がありますから、ご安心ください。

    毎日病院に泊まり込んで看病していたのだから、当たり前のことだ。まして我が子。一縷の望みをかけて必死に看病したのだろう。生き続けてくれることを祈って。

◆ ご遺体は、娘さんの希望で病院の資料解剖に付されていた。打ち合わせが終わって、午後に病院の霊安室で待ち合わせることにした。

 待ち合わせの時間になっても、ご遺体は霊安室に下りてこない。一時間たってご遺体は霊安室へ。でもご家族も先生も姿がない。連絡をとるとロビーで待たされているという。心配になってロビーに行く。

 「えっ、遺体は霊安室なんですか、まだ解剖をしているのかと思っていました。主治医と連絡が取れないんです」とお父さま。どうも主治医の先生の手術が重なっているらしい。  

        Q: 待たせてしまって済みませんね。娘が亡くなる前もこのロビーのソファで毎晩泊まり込んでいたんですよ。最後の最後まで痛がってね。呻き声をあげていました。

    お父さまは、窓の外の光をまぶしそうに見つめていた。

◆ 通夜はしないということだったが、ご家族のみなさんは式場に来られた。線香をあげて、ゆっくりと祈るご両親。静かな時が過ぎる。晴着を着て、美しく化粧をされた娘さんの姿を見て「花嫁さんみたいにきれいだよ」と娘さんに話しかけるお母さま、その側で涙ぐむお父さま。

     お母様:    この子は、自分の夢を追って朝から晩まで働きました。仕事の道を選ばず、結婚でもしていてくれたら病にもかからなかったかも知れません。

    きれいなご遺影を見ながら独り言のように語るお母さま。死という過酷な現実を受け止めるにはまだ時間がかかりそうだ。

◆ 告別式/親戚の方々が参列された。読経がはじまり参列者のお焼香を受けるとお母さまはずっと涙ぐんでいた。

◆ お経も終わり、祭壇のきれいな花をみなさんで棺の中へ飾っていただいた。「よかったね。こんなにきれいになって」「ゆっくり寝ているようでしょう」とお母さま。

◆ 出棺/「蓋を閉めてもよろしいでしょうか」とご両親に尋ねた。「はい」と答えるお父さま、うなずくお母さま。
 棺の蓋が皆さんの手で閉められる。そのときお母さまが、棺の蓋を押し上げ、娘さんを抱え込む。「このままにしておいて」と泣きじゃくりながら、娘さんの頬に自分の頬をあて愛撫する。
 回りの皆もハンカチで目頭を押さえる。「もういいよ、おかあさん」と抱きかかえるお父さま。

◆ 全ての式が終わり、式場の出入り口で親戚の皆さんを送るご両親。ご年輩の白髪の男性が、お母さまの肩をゆすって「誰が悪いんじゃない、運命なんだよ。これが運命なんだよ。自分を責めてはだめですよ」と諭すように慰める。その男性も語りながら涙する。お母さまもお父さまも涙する。

◆7月の曇り空から、ポツリポツリと雨が降ってきた。


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