家族葬の風「蝉時雨 赤子の手足 拓にとり」

◆ 生後五ヶ月だった。

◆ 若いお父さまからの電話だった。

        Q:    息子が、息子が・・・亡くなりました・・

    その声は涙に詰まり、要件が聞き取れない。とにかく、急いでご自宅に向かった。

◆ 若い夫婦はうなだれていた。時折、もう泣くこともない赤ん坊を見つめ、声をかける。「ごめんね、ごめんね。」

◆ 赤ん坊は、ただ眠っているようだった。小さな手も足も、まだ柔らかく、ふっくらして、生きているようだった。
 
◆ 若いお父さまは、なんとか気を紛らそうとして、赤ん坊の遺影をパソコンで作っていた。「この写真でいいかな、こっちの方がいいかな」と奥さまに聞いている。気持ちが落ち着いたころに葬儀の相談をした。

◆    Q:    狭いですが、この家で葬儀をしたいんです。参列者は7~8名です。葬儀は仏式で、儀式を優先するより、家族で静かに送り出したいんです。

        A:分かりました。だいじょうぶです。そのように致しましょう。

◆ 翌日、小さな柩を持ってご自宅に伺った。祭壇の準備をはじめた。柩の周りを取り囲むようにかわいい花が飾られた。部屋中が花でいっぱいになった。

◆ 納棺しましょうかと尋ねると「ちょっと待ってもらっていいですか」といい、お父さまは墨汁を持ってきて、赤ん坊の手と足の裏に墨をぬった。手と足の拓を取った。「かわいい手だね。足もまだこんなに小さいよ」といっては、また涙する。手足に触れるたびに、また涙する。奥さまの手を握りしめて、肩を抱き、二人でまた涙する。スタッフ達ももらい泣きする。

◆ 家の外には、真夏の太陽が照りつける。蝉たちももらい泣きしたのか、いっせいに鳴き立てる。部屋の中は、静寂が外を遮断する。スタッフ達は、汗を流しながら葬儀の道具を運び込み、静かに設置する。

◆ 小さな柩も赤ん坊には広すぎる。真新しい服やお菓子など用意していた副葬品が供えられる。柩の中で赤ん坊は静かに寝ている。

◆ 葬儀には、ご親戚の方と病院の看護婦さん達がかけつけた。

◆ 翌日、小さな柩は荼毘に付された。火葬の間にお父さまが話しかけてきた。

   A: 大丈夫ですか。落ち着かれましたか。

   Q:    ええ、でも残念で残念で悔いが残ります。あの子は、生まれてからずっと病院の中で生活していましたから、一度も外の空気も吸っていないし、景色も見ていないんです。一度でいいから、あの子を抱いて自然の世界を見せてあげたかった。生まれてきたのに地球の自然を知らないんですよ・・・。

    お父さまは、泣き出した。

◆ 慰める言葉を知らない。いっしょに涙するしか考えられなかった。時の刻みを待つ以外に、この悲しみを乗り越える方法は無いかも知れない。自分の無力さを嘆きながら、若い夫婦を見送った。


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