家族葬の風「柩の上のサックスは鳴ったか」

◆ 奥さんが、事務所に相談に来られたのは、今年の3月上旬だった。末期ガンのご主人を抱えていらっしゃるということだったが、葬儀の相談というより、弊社の調査といった感じだった。

◆ 4月の中旬にメールが届いた。

     Q:    そろそろ葬儀のことも具体的に考えはじめました。葬儀については、今のところ、御社にお願いするつもりです。幾つか気になっていることがあるので、教えて下さい。
 近所の人や自治会の人の参列はお断りしようかと考えているのですが、会社の人をそれなりに呼ぶとなると、「家族葬」とは言いにくいと思います。どんな風に連絡すれば良いのでしょうか?

        A: こういう風に連絡されてはどうでしょう。/葬儀は、故人の遺志により、家族と故人の友人だけで執り行います。つきましては、大変申し訳ありませんが、ご弔問、ご香典等はご辞退申し上げます/と。

◆ こんなメールのやり取りが何度か続いた。最後まで悩んでいたのは、斎場だった。色々な要望があったので斎場も色々なところを紹介した。だが、参列者の人数が予想できない。家族・親族で10数名、ご主人の部署が20人の職場なので約30名ぐらいかと判断していたようだが、わからない。

◆ 5月になって、ご主人の様態が悪化した。連絡があって、病院に駆けつける。まだ、30代後半だ。病院から近くの霊安室に運ぶ。ご自宅で葬儀の打ち合わせをした。

◆ ご主人は、優秀な方で理工系の研究員をされていたようだ。奥さんもご主人と同じ理工系を専攻した優秀な方だった。概ね葬儀の打ち合わせが終わったが、最後までご主人の会社からの参列者数がわからない。直接、会社の担当者にこちらから聞くことにした。
 翌日、会社の担当者にうかがうと20名ぐらいだという。でも、現職なので不安だ。ただ、おさえる押さえておいた斎場は、家族葬様の式場だったが、斎場そのものは結構広いので万が一のときは、ロビー対応もできると判断した。

◆ ご主人は、穏和な人で人柄もよく、同僚にも好かれていたようだ。また、会社の軽音楽部の愛好会に入っていて、サックスフォンを吹かれていた。
 葬儀は、仏式だが、せっかくだから、バンド仲間で演奏をしてもらったらどうかと提案した。

◆ バンド仲間は、演奏したかったようで、声をかけてくれたことに感謝していた。葬儀で演奏するのは初めてだという。本人はいないが、柩の上にサックスフォンを飾ることにした。

◆ 通夜がはじまり、お坊さんのお経があげられた。多くて40~50名かと思っていた会葬者は最終的には90名を超えた。会社の同じ部署だけではなく、同期入社のメンバーもみんな集まってきた。みんなご主人の人柄と面倒見の良さ故だという。

◆ 一通りのお経が終わり、お坊さんが退場した後、祭壇の前にドラム・キーボード・ベースのメンバーが並んだ。チョット恥ずかしそうに演奏がはじまった。落ち着いたジャズだ。サックスの音がかぶってくるのだろうが、今はいない。演奏すればするほど、サックスの彼がいないことが胸にしみるのだろうか、ベースの演奏者の目からは涙が止めどもなく落ちていた。他のバンドのメンバーも涙をこらえながら演奏をつづけた。

◆ 演奏が終わって、バンドのリーダーにマイクを向ける。「彼に会えてほんとに良かった。本当にいい奴でした。彼が戻ってこなくなるなんて信じられない・・・・」。言葉は涙でかき消された。

◆ 狭い式場にすし詰めになって、演奏を聴いていた仲間達からもすすり泣く声が聞こえた。ご主人の人柄が偲ばれる。
 そして、一番前で目を赤く腫らしたご両親の無念さも良くわかる。一人息子だった。小さいときから、いい子だったそうだ。大学に入って覚えたサックスフォンが、唯一の趣味だったそうだ。
 彼のサックスフォンの音色は、きっとみんなの心の中に響き続けるだろう。
 
◆ 追伸、ご主人と奥さんは大学時代に知り合ったそうだ。知的な二人の出会いを聞きそびれたが、まだあどけない一人娘さんは、ご主人によく似ていた。逆にそのことが少し心配になった。ご主人の思い出が脳裏から離れず、眠れない日々が続くのではないかと。今はまだ気持ちの整理はつかないだろが、娘さんのためにも新しい生活を始めなければならない。これからが大変な人生の始まりです。
 苦しいときは、そのサックスフォンを手に取ってみてください。きっとやさしい音色が励ましてくれると思います。

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