家族葬の風「ギター演奏に送られて」

◆ 田園調布からの電話だった。そう、あの高級住宅街だ。
 故人は静かにベッドに横たわっていた。端正な顔立ちの仏様だった。まだ生きているような、ただ寝ているようなきれいな顔立ちだった。
 いつものように枕飾りを整えた。ロウソクの光と、線香のけむり、鈴の響きは、僕の脳をあらためて覚ましてくれる。
  
◆ どの葬儀も同じ葬儀はない。当たり前だけど、だから、いつも、その家族の要望を聞きながら、どんな葬儀をするかをきめるのが、わたしたちの家族葬だ。
 通夜開式30分前まで、家族同士で土砂降り雨のなかで喧嘩をしていたご家族もいた。息子さんとお父様の宗教的な見解が違い、両者から両者を説得するように頼まれたこともあった。
 先週は、7才の子供を残して、若いお母様が亡くなられた。葬儀の最中もお母様が亡くなられたことが認識できない、わかっていたかもしれないが、心の中でどう整理していいかわからない、幼いお子さんがご遺体の上ではしゃいでいたのが印象的だった。

◆ 電話をかけてこられたのは、故人の娘さんだった。でも、家族葬ネットを指名してくださったのは娘さんのご主人で、弊社のインターネットを見て、選んで下さったようだ。
 親族、親戚だけで葬儀をしたい。ゆっくり看取ってあげたい。でも、お母様の遺言で料理はたくさん振る舞ってほしいとのことだった。亡くなる最後まで気を使ってしまう、そんなお母様だったようだ。
 娘さんのご主人は、奥様の要望を「君が望むようにしていいんだよ」というような態度で温かく見つめておられた。

◆ 納棺式/ 遠方からかけつけてこられた方も含めて、20名近い親族の方が参加された。旅支度をなぜするのか、そのいわれを説明しながら、一つ一つみなさんの手で旅支度を整えていただいた。
 最後にご遺体を柩に入れるときに、二人の幼いお孫さんが泣きじゃくった。無性に涙が出てきて、止まらないようすだった。幼い文字で書き記した手紙をお孫さんがそっと柩の中にいれた。

◆ 祭壇/ 春の季節を感じさせる色とりどりの花であふれ、華やかな生花祭壇が白い柩を囲っていた。
 当初予想していたより、会葬者が多くなると云う連絡があったので、受付には通常の2倍の4名の女性スタッフがあたった。

◆ 通夜式も無事に終え、お清めの席もなごやかに終えることが出来た。ご主人が斎場にもどられた。持参したギターケースからギターを取り出した。柩にむかって「おかあさん、最後の曲になるけど弾いてあげるね」。
 チューニングをしている間に奥様と子供たちも寄ってきた。「おとうさん、きょうはどんな曲を弾くの」とお子さんがいった。「なんにしようかな」とご主人。
  チューニングを終えて、祭壇のまえに座り、やわらかいギターの音色にあわせて、ご主人が歌いはじめた。

●  母がまだ若い頃 僕の手をひいて
  この坂を登るたび いつもため息をついた
  ため息つけば それで済む
  後ろだけは見ちゃだめと
  笑ってた白い手は とてもやわらかだった
  運がいいとか 悪いとか
  人はときどき 口にするけど
  そういうことって たしかにあると
  あなたを見てて そう思う
  忍ぶ 不忍(しのばず) 無縁坂
  かみしめるような
  ささやかな 僕の母の人生

◆ さだまさし氏の「無縁坂」。この他にも何曲か弾かれていたが、家族だけにしてあげたかったので斎場の扉をそっと閉め、わたしたちは外に出た。義母に対して、心をこめて歌をささげる、やさしい方だと思った。後日奥様から聞いた話だが、お母様が亡くなられる前日まで毎日、ギターを聞かせていたそうだ。
 すてきなご家族に触れると、この仕事をしていて本当によかったと思う。残念ながら、斎場の閉館の時間がせまり、係りのひとが苦情を言いに来る。「すいません。もう少し待っていてくれませんか」と係りの人に交渉する。ロビーの電源が落とされる。「もういいですよ。充分に弾いたから」とご主人。
 斎場をでるとき、もうだれも残っていなかった。もう少し、おかあさんといっしょにいさせてあげたかった。

◆ 後日集金のおり、「主人も家族葬ネットに頼んで良かったと申しておりました。祭壇の花もきれいで、親戚の方々にも評判が良かったですよ。」と奥様。「なにかスタッフに落ち度や、ご不満はありませんでしたか。今後の参考のためにお聞かせいただければとおもいますが」。「いいえ、スタッフの人たちにも親切にしていただいて、本当にゆっくりと式ができたので感謝しています」と奥さまにお礼をいわれる。
 今回は家族葬といっても一般の葬儀とかわりない規模だったが、そのなかでも、ほんの少し家族だけの落ち着いたひと時をつくることができた。いろいろな条件の制約があるが、この時間を今後も大切にしたいと思う。

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