10月下旬日曜日、かねてから予約のあったK家の娘様Sさんから朝6時半に電話が入る
S:「先ほど父が亡くなりました。よろしくお願いします」
N:「そうですか。ご愁傷さまです。病院は○○病院の方でよろしかったですね」
S:「はい。家族のものも9時にはそろいますので、そのころに来ていただけますか」
N:「承知いたしました。準備をいたしまして伺います」
家族葬ネットの葬儀社が9時に病院にかけつけ、ご遺体をご自宅の方へ移送する。
享年70才、しっかりした体格の故人だった。遺族は寝台車と葬儀社の車に分乗し、ご自宅へ帰る。
ご自宅で布団をひき、故人を安置する。枕かざりをそなえ、線香を準備する。家族のすすり泣きの声が絶えない。奥様は故人の顔をなぜながら声をかけられている。焼香をうながし、線香をあげてもらう。
◆打ち合わせ/ 落ち着いたところでSさんと葬儀の打ち合わせする。斎場は檀寺の寺院。宗派は浄土真宗。通夜は翌々日の午後6時。葬儀はその翌日午前9時(お坊さんの都合で)。火葬場は町屋斎場に決まる。
参列者は家族(奥様、娘2人、娘婿2人、孫2人)7人と親戚15人の家族葬。ただし、親戚も娘さんたちも他の宗派なので浄土真宗の葬儀はあまり記憶にないようだ。
同日午後、檀寺へ家族の方といっしょに打ち合わせに行く。ご住職は気さくな方だったが、自分のお寺ではあまり葬儀をしたことがないそうだ。斎場を見せてもらう。ご本尊、ご住職、その右後ろに棺を置き、じゃまにならない程度の飾りをすることになった。
当初の打ち合わせでは、華やかな祭壇を希望されていたが、会場と宗派の関係で小ぶりの飾り付けになった。でも故人は花が大好きだったので出来る限り素敵な花で飾って欲しいと云われる。遺影の額も花額を使うことになった。
◆納棺/ 通夜当日、午後2時から自宅で納棺の儀を始める。関西から親戚の人たちも駆けつけていた。
N: ただいまより、納棺の儀をはじめます。一般的には、ここで旅支度をいたしますが、旅支度は故人がこれから49日の冥土の旅に向かわれるための準備です。しかし浄土真宗では、念仏の教えにうなずいたときに、阿弥陀如来の本願の力によって浄土に還ることが約束されていますので「冥界の旅」へ出る必要がありません。故人は浄土真宗の門徒ですので旅支度はいたしません。
納棺にあたっては、故人が愛用していた清潔な衣服をお着せし、思い出の品を棺にお入れするこにします。
家族葬ネットのスタッフからが説明をした後、みなさんで洗浄綿で故人のお身体を清めていただく。
「こんなに痩せて、みんな来ているからね」とつぶやきながら、体を洗うようにご遺体を何度も何度も拭かれていた奥様の姿には、ついもらい泣きをしてしまった。
祭壇設営/ 棺の前を色とりどりのコスモスとトルコキキョウ、百合で飾り、棺の後ろは百合と薔薇をあでやかにあしらい、胡蝶蘭を添えた。中央に菊花で囲まれアクセントに紫の蘭をそえた花額を置いた。遺影は花に負けず凛々しかった。
◆ 法名/ 浄土真宗では他宗のように受戒はしないので、「戒名」とは云わない。仏法に帰依した人ということで「法名」と云っている。法名は「釈○○」の二文字だ。釈は「釈迦」からきている。今回のKさんの法名は院号つきだ。よって「○○院釈○○」と豪華だ。ちなみに浄土真宗では位牌はつくらない。法名軸や過去帳で祖先を敬う。
◆ 通夜/ 開式まえに参列者に浄土真宗の作法を伝える。
N: ご焼香は中央にあります焼香台でご本尊に、つづきまして右手の焼香台で故人様にあげていただきます。ご焼香の作法は、ご本尊さまに向かって軽く一礼し、左手に念珠を持ち、右手で香をつまみ、一回だけ(大谷派は2回)薫じます。その際、香をつまんで頭や額におしいただく必要はありません。最後に合掌し、ご本尊に向かって一礼し、席にもどります。
つづいてご住職が入場。ご本尊に向かって合掌、礼拝する。読経とともに通夜式がはじまる。
一通りご焼香を終え、ご住職の説法を最後に閉式とする。式後、Sさんにお礼を言われる「本当にきれいな祭壇でありがとうございます。コスモスも百合も蘭もおじいちゃんが好きだった花ばかりで、きっとよろこんでいると思います」。
ご住職の奥様は「こんな葬儀もできるんですね。きれいでいいですよね。すてきだわ。葬儀を頼まれたときいつも悩んでいたんですよ。写真撮られたら、うちにも送ってもらえますか」。なかなか熱心だ。
式後は寺院の座敷を借りて、親族・親戚だけで通夜ぶるまいをした。
◆ 葬儀/ 朝9時からはじまった。ご本尊さまに向かってご住職の読経がはじまり、つづいて故人の前で読経をされた。ご住職の説法で最後を閉めるものと思いこんでいたので、一度横の部屋に下がられたのは意味がわからず、閉式のタイミングを失った。失礼しました。
出棺。棺に入れるために祭壇の花を抜いて箱にいれる。後ろの親戚のおじさん「東京はスマートでええな」という。棺のなかにみなさんの手で花を入れてもらう。お顔の周りには百合や蘭で色あざやかにかざられる。棺が花でいっぱいになる。お母様が棺によりそう「きれいや、きれいや、おじいちゃん元気でな」。みなが涙する。
◆ 荼毘/ 友引明けなので火葬場は混んでいた。遺骨はお孫さんがかかえた。「重い」と感想をもらした。
お斉(おとき)/
一般的には「精進おとし」といわれているもの。荼毘のあと、家族・親戚をマイクロバスで料亭に送る。運転手さんが道を一本間違えて手前で降ろしてしまった。ごめんなさい。お斉のあと、すぐに関西にもどられる方がいたので駅の近くのホテルの料亭をとったため、運転手さんはなれていなかったようだ。前もって地図をファックスしていたのに、謝る運転手さんを責めるわけにもいかず、ごめんなさい。
本来なら、料亭に入る前で「清めの塩」を体にふりかけるが、浄土真宗ではやらない。このことはK家の人には説明しなかったので「手を抜いた」と思われたかもしれない。
それでもSさんをはじめK家のみなさんには「本当に良い葬儀でした。ありがとうございます」と感謝された。この言葉で疲れが癒される。ほんとうに良い葬儀でした。