昨今、親殺しや子殺し、無差別殺人など悲惨な事件が多発しています。他方で食品偽装など拝金主義が横行しています。日本人は物の怪(け)につかれたように人の心をおとしめ、命の尊厳を軽んじてしまったのでしょうか。
しかし一方で、自腹を切って、ベトナムの貧しい人々に無償で治療をおこなう眼科医・服部匡志氏やパキスタンやアフガニスタンで医療活動・地域復興活動を続ける中村哲医師、同じ活動の最中に無念にも銃弾に倒れた伊藤和也さんなど、世界のために孤軍奮闘する多くの日本人もいます。
人は何のために生きるのか。つくづく考えさせられます。人生にとって最も重要なテーマでしょう。
そして、私たちが最初にふれあう生き方は、両親であり、家族です。全ての物語は、ここから始まります。
葬儀もまた、人の死を通して、人は何のために生きるのか、問われます。どんなに豪華な葬儀を行ったとしても、道具や飾り、しきたりや見栄などを取りのぞけば、最後に残るものは、故人と遺族をむすぶ心の風景だけです。
なかには「親父は、讃えてやるほどの人生じゃないよ」と思われる方もいるでしょう。しかし、「こんな親父、どうしようもなかったね」とさげすむあなたと、「無茶な親父だったけど、ありがとう」と感謝するあなたと、お子さんは、どちらに命の尊さや愛情を感じるでしょう。
例えばあなたがお子さんに「おばあちゃんはね、日本が一番大変なときに、身を粉にして、私たちを育ててくれたの。だから、お父さんとおかあさんは一緒になれたし、あなたが生まれてこれたの。だから、おばあちゃんに感謝しておくり名をプレゼントするのよ」と話したとき、お子さんは、あなたの愛情と家族の物語を心に刻まれることでしょう。そして、命の尊さを分かち合うことになるのではないでしょうか。
「おくり名」で、素敵な家族の物語をつくりませんか。 幸あれ。
平成20年10月
「忌み名の研究」穂積陳重著:講談社学術文庫
「お葬式をどうするか」ひろさちや著:PHP新書
「お坊さんが困る仏教の話」村井幸三著:新潮新書
「戒名と日本人」保坂俊司著:祥伝社新書
「戒名」島田裕己著:法蔵館
「戒名のはなし」藤井正雄著:吉川弘文館
「戒名よもやま話」原勝文著:国書刊行会
「戒名のはなし」松本慈恵著:国書刊行会
「戒名・法名のはなし」ひろさちや著:世界聖典刊行教会
「『君の名は』の民俗学」岩井宏實著:河出書房新社
「古事記」倉野憲司校注:岩波文庫
「聖徳太子と日本人」大山誠一:角川ソフィア文庫
「<聖徳太子>の誕生」大山誠一著:吉川弘文館
「新・佛教辞典」中村元監修:誠信書房
「葬儀・戒名そこが知りたい」大法輪閣
「ちょっとまじめな日本史Q&A」出川出版社
「名前の禁忌習俗」豊田国夫著:講談社学術文庫
「名前の日本史」紀田順一郎著:文藝春秋
「日本人の言霊思想」豊田国夫著:講談社学術文庫
「日本書紀」坂元太郎他校注:岩波文庫
「歴代天皇辞典」高森明勅著:PHP文庫
「歴代天皇総覧」笠原英彦著:中公新書
「わりやすい仏教用語辞典」大法輪閣